歴史の渦に消えた、龍の玉座と孤独な魂
ラストエンペラー
公開年:1988 年 (公開年:1987 年)
原題:THE LAST EMPEROR
上映時間 163 分
制作国:イタリア・イギリス・中国
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ジョン・ローン、ジョアン・チェン
Rottenn Tomatos評価
86%
iMDb評価
Filmarks評価
運営評価
レビュー
1. 本作の魅力:注目ポイント
- 史上初、紫禁城での壮大なロケ
中国政府の全面協力を得て、史上初めて、世界遺産である紫禁城での映画撮影です。
本物の持つ圧倒的な迫力と荘厳な美しさは必見です。
- 皇帝から市民へ
清朝最後の皇帝・溥儀の人生を描く、壮大な歴史ドラマです。
- 坂本龍一による魂を揺さぶる音楽
坂本龍一のアカデミー作曲賞を受賞した旋律が、物語の悲劇性と美しさを際立たせています。
2. こんな人におすすめ
✅ おすすめ
- 壮大な歴史ドラマが好きな方。
実在の人物の波乱万丈な人生を通じて、20世紀前半の激動する東アジア情勢を学べます。 - 映像美や芸術性を重視する方。
紫禁城の豪華絢爛な宮殿や衣装、そしてアカデミー撮影賞を受賞したカメラワークが、視覚的な満足感を提供してくれます。 - 深い人間ドラマに浸りたい方。
歴史に翻弄された一人の人間の孤独と葛藤。
アイデンティティを探し求める姿に、普遍的なテーマを見出すことが出来ます。
⚠️ 注意点
- 上映時間の長さ。
オリジナル版は約163分と長尺なので、時間に余裕のある鑑賞をおすすめします。 - 歴史的背景の知識
清朝末期から文化大革命までの知識が少しあると、より深く楽しめます。
- 派手なアクションや劇的展開を求める方
溥儀の内面を静かに描く場面もあり、展開が遅いと感じるかもしれません。 - 英語劇によるリアリティに違和感を覚える方
3. 物語とテーマ
📝 あらすじと概要
清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀の幼少期から晩年までを回想形式で描きます。
激動の中国近代史を背景に、孤独と変革の数奇な人生を辿ります。
激動の中国近代史を背景に、孤独と変革の数奇な人生を辿ります。
💭 テーマと構造
本作は「個人のアイデンティティ」という普遍的なテーマを扱います。
歴史という巨大な力の前で、個人の意志はいかに無力かを、溥儀の人生を通して問いかけます。
歴史という巨大な力の前で、個人の意志はいかに無力かを、溥儀の人生を通して問いかけます。
回想と現在を交錯させる構成が、溥儀の内面と時代の変化を鮮やかに描出しています。
4. 映像・音響表現と演出
ベルナルド・ベルトルッチ監督の演出は、壮大さと繊細さを兼ね備えています。
ヴィットリオ・ストラーロの撮影が創り出す映像美は圧巻。
紫禁城の黄金色に輝く宮殿と朱色の柱が織りなす色彩の饗宴、俯瞰からのダイナミックな構図が、皇帝の孤独と権力の虚しさを象徴的に表現しています。
また、坂本龍一とデヴィッド・バーンによる音楽は、伝統的な中国楽器と現代的なシンセサイザーを融合させ、東西文化の邂逅を音響的に実現しています。。
5. 製作エピソード
ベルトルッチ監督による本作の企画は、1982年に溥儀の自伝『わが半生』を読んだことから始まりました。
イタリア人監督が中国皇帝の物語を描くという前例のない挑戦でしたが、中国政府との交渉に3年を費やし、ついに紫禁城での撮影許可を獲得しました。
「これは中国の歴史であると同時に、どこにでもいる人間の物語だ」と語っています。
総製作費2300万ドルの歴史ドラマ超大作として、中国共産党の全面協力により北京の故宮で数週間にわたり世界初のロケーション撮影が行われました。
撮影には、中国人民解放軍の兵士を含む約1万9000人ものエキストラが動員されました。
即位式のシーンでは、2000人のエキストラの髪を剃り、辮髪(べんぱつ)を再現したといいます。
衣装デザインのジェームズ・アシュソンは、約9000着もの衣装を制作し、史実に忠実でありながら芸術的な世界観を構築しました。
撮影現場では英語、イタリア語、中国語が飛び交う国際的な環境で、室内シーンはイタリアの撮影所、チネチッタで撮影されました。
ベルトルッチ監督は後に、「中国という巨大な国での撮影は、まるで映画の中で映画を作るような体験だった」と語っています。
音楽を担当した坂本龍一は、甘粕正彦役として俳優出演もしています。
彼は撮影地の中国で、わずか2週間で44曲を作曲するよう依頼されたという有名な逸話があります。
このプレッシャーの中で生み出された楽曲群が、アカデミー作曲賞に輝いたのです。
また、溥儀の弟である愛新覚羅溥傑がアドバイザーとして撮影に協力し、作品のリアリティを一層高めることに貢献しました。
6. 国内外の評価
🌎 海外メディアの評価
本作は世界的に絶賛され、映画史に残る金字塔と評価されています。
その象徴が、1988年の第60回アカデミー賞での快挙です。
作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、録音賞、美術賞、衣裳デザイン賞、作曲賞のノミネートされた9部門すべてを完全制覇しました。
また、第45回ゴールデン・グローブ賞でも、ドラマ部門作品賞、監督賞、脚本賞、作曲賞を受賞しました。
アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞は、受賞作品が変わることで有名ですが、両方で作品・監督・脚本を受賞していることが、本作品の完成度の高さを表しています。
批評家からの評価も極めて高いです。
Rotten Tomatoesでは、批評家支持率86%を獲得。「壮大なスケールと親密な人間ドラマの驚くべき融合」と総括されています。
大手批評サイトMetacriticでのスコアは76/100で、「概ね好意的なレビュー」を示します。
伝説的な批評家ロジャー・イーバートは4つ星満点を与え、「この映画は、私たちが見たこともないイメージで私たちを魅了する。そして、歴史の激動に囚われた男の肖像で私たちを感動させる」と絶賛しました。
『ワシントン・ポスト』紙は「ベルトルッチは、歴史的スペクタクルと痛烈な心理劇を、息をのむような美しさで融合させた」と評しています。
「ベルトルッチ監督のビジョンは壮大であり、その実行力は息をのむほどだ。『ラスト・エンペラー』は、歴史映画というジャンルを再定義した」とVarietyは評しました。
海外では、歴史叙事詩の傑作としてだけでなく、一人の人間の内面を深く描いた芸術作品として高く評価されています。
🇯🇵 日本国内の評価
日本でも興行的に大成功を収め、批評家からも絶賛されました。
特に坂本龍一が日本人として初めてアカデミー作曲賞を受賞したことは大きな話題となりました。
映画雑誌『キネマ旬報』では、1988年度の外国映画ベスト・ワンに選出されています。
海外の評価と同様に、その圧倒的な映像美と歴史の重厚さ、そして溥儀の悲劇的な生涯を描いた物語が高く評価されました。
7. レビューと関連作品
💯 レビュー
本作は、巨大な歴史の歯車に翻弄され続けた一人の人間の、魂の彷徨を描いた普遍的な物語です。
ベルトルッチ監督は、紫禁城という本物の舞台を得て、壮麗な映像の中に溥儀の孤独と悲哀を焼き付けました。
ジョン・ローンの繊細な演技は、皇帝としての威厳と、すべてを失った男の虚無感を見事に表現しています。
特に、溥儀の人生を俯瞰し、象徴するようなラストシーンには胸を締め付けられました。
まさに不朽の名作と言えるでしょう。
🍿 関連作品レコメンド
同ジャンル/テーマ
- 『宋家の三姉妹』(1997)
同じく激動の中国近代史を、三姉妹の視点から描きます。
- 『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)
京劇役者の人生を通して、中国の動乱期を描いた傑作。
本作同様、個人の運命と歴史が交錯します。
同監督作
- 『シェルタリング・スカイ』(1990)
サハラ砂漠を舞台に、自己を見失う男女を描いた、映像美と虚無感が漂う作品です。
坂本龍一が再び音楽を担当しています。
🔗 参考文献・リンク
The Last Emperor (1987) – Rotten Tomatoes
The Last Emperor – Metacritic
Roger Ebert Review – The Last Emperor (1987)
Roger Ebert Review – The Last Emperor (1987)
映画『ラストエンペラー』公式サイト
ベルナルド・ベルトルッチ監督作品レビュー一覧
🔄 更新情報
更新:2024年6月11日 – 初稿作成