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三つの寓話が紡ぐ、不条理な善意の迷宮

憐れみの三章

公開年:2024 年

海外題:Kinds of Kindness

上映時間 164 分

制作国:アメリカ、イギリス

監督: ヨルゴス・ランティモス

出演:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー

Rottenn Tomatos評価

71%

iMDb評価

Filmarks評価

運営評価

レビュー

1. 作品概要と魅力

 
📝 あらすじ

 

自由を奪われた男、別人となった妻を恐れる警官、奇跡の能力を持つ者を探す女──。
三つの奇想天外な物語が支配と服従の本質に迫ります。

 

💎 本作の魅力

 

  • ランティモス監督の不条理劇
    『哀れなるものたち』の商業的成功の後、共同脚本のエフティミス・フィリップと再びタッグを組み、ランティモス監督が初期の作風に回帰しています。

  •  一人三役の演技合戦
    エマ・ストーンをはじめとする豪華キャストが、各章で全く異なる役柄を演じ分けています。

  • 宗教的寓意の多層構造
     三章は聖書の三位一体を示唆する構成となっており、父なる神・子なるキリスト・聖霊を象徴する物語展開です。

2. おすすめ視聴ポイント

✅ こんな人におすすめ

  • ランティモス監督のファン
    ランティモスとフィリップの脚本タッグが持つ、シュールで不穏な世界観が好きな方。

  • 非線形的な物語構造に興味がある方
    アンソロジー形式でありながら、三章を貫くテーマとモチーフの反復が巧みに設計されています。

  • 演技の多面性に興味がある方
    同一俳優が複数役を演じ、その演技力の幅を堪能できます。
⚠️ 注意点

 

  • 上映時間の長さ
     164分の長尺であり、三つの物語が独立しているため、集中力の持続が必要です。

  • 明確な物語解決を求める方には不向き?
    各章は突然終わり、観客に多くの解釈を委ねる構造となっています。

  • 暴力・性的描写に抵抗がある方
    R15+指定のため、性的、暴力的な場面が含まれています。

 

3. 製作エピソード

 

『憐れみの三章』は、ランティモス監督が『哀れなるものたち』のポストプロダクション中に、並行して撮影した作品です。

2022年10月24日から12月16日までニューオーリンズで撮影が行われ、当初の仮題は「R.M.F.」、その後「And」と変更され、2023年12月に現在の題名に決定しています。

(監督によれば、R.M.F.という頭文字に特別な意味はないそう)

エマ・ストーンはランティモスの3作目となる主演作で、プロデューサーとしても参加。

ウィレム・デフォーとマーガレット・クアリーは、『哀れなるものたち』に続く出演、ジョー・アルウィンは『女王陛下のお気に入り』以来の再タッグとなる。

撮影監督ロビー・ライアン、編集ヨルゴス・マヴロプサリディスなど、『哀れなるものたち』のコアスタッフが再集結しています。

2024年5月17日、第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で世界初公開で、ランティモス監督にとって『ロブスター』『聖なる鹿殺し』に続く3度目のコンペ出品となりました。

最高賞のパルム・ドールは、ショーン・ベイカー監督の『アノーラ』が受賞しましたが、ジェシー・プレモンスが男優賞を獲得する快挙を成し遂げています。

そのプレモンスは、「ランティモス監督は俳優に信じられないほどの自由を与えてくれる。彼の世界では、失敗を恐れずに実験できる」と受賞スピーチ。

ランティモス監督自身も記者会見で「エマ、ジェシー、ウィレムたちと仕事をするのは夢のような経験。彼らは役柄を単に演じるのではなく、作品の共同創造者として参加してくれた」と語っています。

また、ランティモス監督は、本作の美術デザインにおいて、「オフキルター(Off-Kilter:バランスを欠いた、不安定な)」な現実 を意図的に作り出しています。

セットや衣装は、一見すると現代的で普通に見えますが、どこか違和感を覚えるように設計されています。

例えば、建築デザインは幾何学的で無機質であり、登場人物の感情の欠如や、物語の非現実的なトーンを強調しています。

監督はインタビューで、この手法が「観客を少し不安にさせ、彼らが慣れ親しんだ現実から引き離す」ことを目的としていると語っています。

 

4. 国内外の評価

🌎 海外メディア評価

RogerEbert.comの批評家ブライアン・タレリコは、★★★(4点満点中3点)の評価を与え、本作が「コントロールと、それに抗いながらも回帰してしまう人間の姿」を探求していると指摘しつつ、三つの物語のテーマ的な繋がりについては「議論の余地がある」と述べています。

しかし、ジェシー・プレモンスの演技 を「今年の最高の演技の一つ」と絶賛し、彼の存在が作品をまとめ上げていると評価しました。

Varietyの批評家ピーター・デブルージは、「冷酷で独創的な映画であり、魅了すると同時に苛立たせる。不条理な現代社会の風刺として、慣習的な論理を無視しながらも展開する」と評価し、「サスペンスではなく驚きから緊張感を生み出している。各セグメントはサキ風のひねりで突然終わり、次へ移る」と編集の巧みさを指摘しています。

NPR (National Public Radio)の、批評家ジャスティン・チャンは酷評し、「支配と自由意志についての暗黒な喜劇として、怠惰で自己満足的な変奏曲のように感じられ、時折粗野なショックで区切られている」と指摘。

「監督のパターンとモチーフの設定は非常に巧妙だが、アプローチの厳密さの欠如に失望した。アイデアは枯渇しているように感じられ、その疲弊は伝染する」と批判的な評価を下しています。

一方でNPRは年末の2024年ベスト映画・テレビリストに本作を選出しています。

批評家グレン・ウェルドンは「ランティモスの人間性に対する見方は、いつものように、陰鬱にも面白いものであり、ここでは我々が容易に訴える暴力的な極端さを冷静に示している」とコメントしました。

批評家からは概ね好意的な評価を得ているものの、観客スコアはRotten Tomatoesで51%、Metacriticで5.9と、一般観客との間に大きな乖離 が見られます。

これは、ランティモス監督の作風が持つ難解さや、不快感を伴う描写が、一般の映画ファンには受け入れられにくいことを示唆しているようです。

世界総興行収入は約1,640万ドル(製作費1,500万ドル)で、『哀れなるものたち』の1億1,700万ドル(3,500万ドル)と比較すると大幅に下回っています。

しかし限定公開作品としては成功を収め、2024年の米国限定公開映画興行収入ランキングで2位に位置した。

初週末の劇場平均7万ドルは2024年最高記録となり、翌週には490館に拡大して200万ドルを記録、最終的に米国・カナダで約500万ドル、海外で約1,140万ドルを稼ぎ出しています。

🇯🇵 日本国内評価

 

『哀れなるものたち』が第96回アカデミー賞で4部門受賞という快挙を成し遂げた直後の公開であったため、ランティモス監督作品への注目度は高かったと言えます。

ただし本作は、前作とは対照的に過激で実験的な内容のため、一般観客層への訴求力は限定的であり、海外と同様、ランティモス監督の初期作品に親しんできたコアなファン層を中心に支持を集めたようです。

5. 総合レビューと関連作品 

 

💯 総評

 

本作は、ヨルゴス・ランティモス監督が、『女王陛下のお気に入り』や『哀れなるものたち』といったアカデミー賞受賞作で国際的な成功を収めた後、自身の原点回帰 を図った作品として位置づけられます。

アンソロジー形式という構造は『パルプ・フィクション』や『アモーレス・ペロス』のような傑作を想起させますが、ランティモス監督は因果関係を明示せず、観る者に解釈を委ねています。

164分の上映時間、過激な性描写と暴力、明確な解決の欠如は大きく評価が分かれますが、宗教的寓意や権力構造への批判は時代を超えた普遍性を持っていますので、今後も見続けられる作品となるでしょう。

 

🍿 関連作品レコメンド

 

同ジャンル・テーマ作品

 

  • 『パルプ・フィクション』(1994)
    複数の物語を非線形的に配置したアンソロジー作品の代表。
    クエンティン・タランティーノ監督らしい、”暴力とユーモア”の配合は絶妙です。

  • 『アモーレス・ペロス』(2000)
    アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督のデビュー作で、三つの物語が一つの事故で交錯。
    人生の残酷さと偶然性を描いています。

  • 『クラッシュ』(2004)
    人種差別と人間関係の複雑さを多層的に描いたポール・ハギス監督のアンソロジー形式の傑作で、アカデミー作品賞受賞作です。

同監督作品

 

  • 『ロブスター』(2015)
     ランティモス監督の初期作で、エフティミス・フィリップとの共同脚本です。
    独身者が動物に変えられる不条理な世界を描いたシュールな作品です。

  • 『聖なる鹿殺し』(2017)
     医師の家族に訪れる不可解な呪いを描くスリラーで、冷徹な演出と不穏な雰囲気は本作に通じます。

🔗 参考文献・リンク

サーチライト・ピクチャーズ日本公式サイト
Roger Ebert.com、Metacritic、Rotten Tomatoes、IMDb
MovieWalker Press、MSCREEN ONLINE、Variety、
The New York Times、キネマ旬報、The Hollywood Reporter
allcinema、映画.com、Wikipedia

🔄 更新情報

2025年11月10日: 初回投稿
2025年11月11日: 第2稿投稿

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