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1980年、スタンリー・キューブリック監督が世に送り出した『シャイニング』は、今やホラー映画の金字塔として確固たる地位を築いています。
ジャック・ニコルソンとシェリー・デュヴァルが主演を務めたこの作品は、公開から45年を経た今もなお、その不気味な魅力で多くのファンを惹きつけ続けています。
革新的な映像技術と視覚表現
『シャイニング』の最大の魅力の一つは、その革新的な撮影技術にあります。ギャレット・ブラウン製作によるステディカム(手持ちカメラの揺れを抑える装置)の使用は、映画史に残る画期的な試みでした。
特にダニーが三輪車でホテルの廊下を走るシーンでは、低アングルのトラッキングショットが絨毯から木の床へと滑らかに移行し、見る者を不安な気持ちへと誘います。
わずか地面から2.5センチ程度でのカメラアングルが続くこのシーンの臨場感は半端ではありませんでした。
しかもカメラが直角に角を曲がった、その先には…!映画館で震えました。
俳優たちの圧巻の演技
『カッコーの巣の上で』でアカデミー賞を獲得したジャック・ニコルソンは、本作ではカッコーの躁的演技とは正反対と言える狂気に満ちた演技を披露しています。
彼の「Here’s Johnny!」のシーンは、映画史に残る名場面として広く認知されています(これはニコルソンのアドリブ)。
シェリー・デュヴァルのウェンディ役も忘れがたい存在感を放っています。
彼女の恐怖に震える表現は、映画の緊張感を高める重要な要素となっていて、ある意味ニコルソンより怖いです。
キューブリックの完璧主義と製作の裏側
キューブリックの完璧主義的な手法は、『シャイニング』の撮影現場でも遺憾なく発揮され、撮影期間は異例の長さとなる1年以上に及んでいます。
特に有名なのは、シェリー・デュヴァルに対する苛烈な演出です。彼女自身が後に語っていますが、同じシーンを35回以上も撮り直させられたといいます。
「走って、泣いて、小さな男の子を抱えて。それはハードだった」。
さらに驚くべきことに、ハロランとダニーがシャイニングの能力について話すシーンは148回も撮り直され、「セリフのある1シーンで最も多いリテイク」としてギネス記録に認定されています。
当時ジャック・ニコルソンと交際していた女優アンジェリカ・ヒューストンは、シェリー・デュヴァルの置かれていた環境について「彼女は多少なりとも拷問され、混乱させられているように見えた」と証言しているほど。
今日の視点から見れば、パワーハラスメントとも取れるこうした撮影手法が、皮肉にも作品の緊張感を高める結果となっています。
公開当初の評価と現在の評価
現在は古典的名作として評価される『シャイニング』ですが、公開当初の批評家の反応は厳しいものでした。
Variety紙は「ニコルソンが狂気を増すほど、彼はより愚かに見える。シェリー・デュヴァルは原作の温かみのある共感的な妻を、単純で半分知的障害のあるヒステリックな人物に変えてしまった」と酷評してあって、当時驚きました。
シカゴ・トリビューンのジーン・シスケルも「がっかりだ。最大の驚きは、ほとんどスリルがないことだ。『シャイニング』は退屈で、時には恥ずかしくなるほどだ」と述べています。(後年評価を上げています)
ワシントン・ポストも「スタンリー・キューブリックによる『シャイニング』は、スティーヴン・キングのベストセラー小説の退屈で冴えない蒸留物であり、新しい映画シーズンの大きな失望である」と評しました。
しかし時を経て評価は一変し、現在ではRotten Tomatoesで批評家スコア83%という高い評価を獲得しています。『遊星からの物体X』(1982)と同様に、当初は評価されなかったものの、後に同ジャンルの最高傑作として再評価された典型的な例と言えます。
その後の影響
今では「Here’s Johnny!」のシーンをはじめ、数々の名場面がパロディとして使用されるほど文化的影響力を持つ作品となり、ホラー映画の教科書的存在として多くの映画に影響を与えています。
2019年には続編『ドクター・スリープ』も公開されました。
45年の時を経て、『シャイニング』はその斬新な映像技術、俳優の圧倒的な演技力、そして緻密な演出により、単なるホラー映画を超えた芸術作品として映画史に刻まれています。
皮肉な顛末
このように大きな成果を収めた「シャイニング」ですが、皮肉なことに原作者であるスティーブン・キングは、この作品を「美しいがエンジンの無いキャデラック」と酷評しています。
原作では、ホテルのもつ”狂気”よりも、それに憑りつかれつつも家族を守ろうとする、主人公の”家族愛”がメインとなっているからです。
完成に納得しなかったキングは、後年TV作品を製作しています。
(テレビ作品なので4時間越え。キングの描きたかったものは分かりますし、エミー賞を受賞していますが、作品としては微妙でした)
「ブレードランナー」との意外な共通点
「シャイニング」と「ブレードランナー」はどちらも公開時には評価が低かったのですが、その後評価が高まり、今ではそれぞれのジャンルで傑作として知られています。
1982年公開の「ブレードランナー」は「シャイニング」と同じワーナー製作。
作品完成時の覆面試写会(スニークプレビュー)の評価があまりにも悪かったため、ラストシーンを分かりやすいハッピーエンドに差し替えることになりました。
その際に使われたのが、「シャイニング」のオープニング用に撮影されたグレイシャ―国立公園の空撮シーンの未使用テイクです。
当時はドローンもないので、空撮も費用が掛かり大変なため、流用されました。
「ブレードランナー」の劇場公開版のエンディングに使用されましたが、(違和感が半端なく)その後のディレクターズカット版では、削除されています。