単なる伝記映画を超えて、音楽と社会変革の交差点に立つボブ・ディランの魂の軌跡を描いた作品です。

主演のティモシー・シャラメは、ディランの若き日々を繊細かつ大胆に演じ切る。
フォークの神から電気楽器を駆使するロックの革命児へと変貌を遂げる、その内的葛藤と芸術的挑戦が鮮明に描かれている。

エル・ファニングとエドワード・ノートンの演技も、物語に深い味わいを添えている。

1960年代のアメリカを背景に、公民権運動やベトナム戦争という激動の時代と、ディランの音楽が織りなす関係性が見事に描き出されている。
彼の楽曲が社会の空気を捉え、人々の心を揺さぶった様子が生き生きと伝わってくる。

マンゴールド監督は、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』では、ジョニー・キャッシュの人生を描き、『フォードvsフェラーリ』ではモータースポーツの世界を描いてきた。

今作においても、実在の人物の物語を、単なる再現ではなく、普遍的な人間ドラマとして描き出すことに成功している。

音楽的革新と個人的葛藤、時代との共鳴、そして芸術家としてのアイデンティティ探求。
本作は、ボブ・ディランという伝説の始まりを、情熱とユーモアを交えて描き出した傑作と言えるだろう。