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野獣死すべし

松田優作、孤高の反逆者の物語

公開年:1980 年

原題:野獣死すべし

上映時間 119 分

制作国:日本

監督:村川透

出演:松田優作, 小林麻美, 室田日出男, 鹿賀丈史

ストーリー:

戦場を渡り歩いた元カメラマンが”野獣”へと変貌し、管理社会に犯罪で挑む姿を描く衝撃作。

Rottenn Tomatos評価

iMDb評価

Filmarks評価

運営評価

運営コメント

人間の野性と狂気を描き切る傑作クライムアクション

1980年代初頭の日本映画界に衝撃を与えた「野獣死すべし」は、大藪春彦の同名小説を原作とする重厚なクライムサスペンス作品です。

この作品は、村川透監督の演出と松田優作の狂気的な演技が見事に融合し、日本映画史に残る傑作として、今なお多くの映画ファンを魅了しています。

映像美と演出の緊張感
村川透監督と撮影を担当した仙元誠三、照明の渡辺三雄が作り出す映像世界は、唯一無二で、緊迫感に満ちています。

特に、夜のシーンや暴力的な場面での光と影の対比は、主人公・伊達邦彦の内面の闇を視覚的に表現するのに成功しています。

伊達が銀行強盗を実行するシーンや、列車内でのシークエンスでは、限られた空間内での緊張感が巧みな構図と編集によって極限まで高められています。

また、クラシック音楽(特にショパンのピアノ協奏曲)を効果的に使用することで、主人公の精神世界と外界との乖離を表現する手法は秀逸です。

たかしまあきひこが手掛けた音楽は、伊達の無機質な暴力性とエリートとしての教養の対比を見事に浮かび上がらせています。

松田優作の鬼気迫る演技
本作の最大の見どころは、伊達邦彦を演じる松田優作の凄まじい演技です。

東大出身のエリートでありながら戦場での経験から人間性を喪失し、冷徹な「野獣」と化した主人公を、松田は体全体を使って表現しています。

特に、物語が進むにつれて次第に正気を失っていく様子は、言葉では表現できない恐ろしさがあります。

また、真田役の鹿賀丈史も、伊達に引き込まれていく若者を繊細に表現しており、松田との演技の応酬が見どころとなっています。

実際、松田優作は”演技をしている”というより、彼自身が持つ衝動があふれ出ているようで、そこには”狂気”すら感じます。

あれだけ名だたる世界の名優が揃った「ブラックレイン」においてすら、松田の演技は異質のレベルでした。

深層心理を探る脚本
丸山昇一の脚本は、原作がハードボイルドな叙事的描写に重きを置いているのに対し、映画版では伊達の精神的崩壊の過程を掘り下げています。

特筆すべきは、主人公が「野獣」になっていく過程と、その「野獣性」を他者に伝染させていく様子の描写です。

伊達が語る「神を超える」という概念は、彼の狂気の核心を表すと同時に、現代社会への批判としても機能しています。

ただし、この部分は”語り”が多くなった分、少し物語が停滞したのは残念でした。

製作背景と角川映画の台頭
「野獣死すべし」は、角川春樹事務所と東映の共同製作で、当時徐々に力をつけつつあった「角川映画」の一作として位置づけられます。

製作費を、7億3000万円の興行収入で回収したことからもわかるように、商業的にも一定の成功を収めた作品です。

この時期の日本映画界は、テレビの普及に伴う観客減少と、それに対抗するための企画映画の台頭という過渡期にありました。

社会的インパクトと批評
公開当時、本作の暴力描写や残酷なシーンは物議を醸しましたが、一方で松田優作の演技力と映像の質の高さは高く評価されました。

特に、管理社会への反抗というテーマは、1980年代初頭の日本社会の閉塞感を反映したものとして、現代でも示唆に富む視点を提供しています。

小ネタ・裏話
本作は1959年に須川栄三監督、仲代達矢主演で一度映画化された作品のリメイクで、仲代「野獣死すべし」の続編が、藤岡弘主演の「野獣死すべし 復讐のメカニック」です。

また、本作の公開時には「ニッポン警視庁の恥といわれた二人 刑事珍道中」が同時上映されていました。
この対照的な作品との組み合わせも、当時の映画興行の一面を物語っています。

現代における評価
時代を経ても色褪せることのない本作の魅力は、人間の本能的な「野獣性」という普遍的なテーマを掘り下げていることにあります。

松田優作の圧倒的な存在感と、村川透監督の冷徹な演出スタイルは、40年以上経った今でも強い印象を残します。

クライム映画ファンはもちろん、日本映画史や松田優作の演技に興味がある方にとって、必見の一作といえるでしょう。

松田優作という俳優は、日本には数少ないカリスマ性を持つ俳優であり、燃え尽きるように早く逝ってしまったのが本当に残念です。

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